スピッツアルバム研究10「99ep」

こんにちは。

桃亀改めandです。

 

スピッツのアルバムを聞いて

個人的な感想や解釈を

ダラダラ書いています。

 

前回「フェイクファー」を聞いて書いた

感想文はこちらから。

https://peachdraw18.hatenablog.com/entry/2019/11/15/130731

 

 

今回は、99ep

聞いていきたいと思います。

 

…え?

これってアルバムにカウントするの?

 

って思いますよね。私も思いました。

 

アルバムというよりも、

シングル以上アルバム未満

という感じですが、

スピッツ本人たちの意向ではアルバム

という扱いになっているようなので、

私もアルバムという括りで

やってみます。

 

 

前作「フェイクファー」の

ライブツアーから、

キーボードを担当する

サポートミュージシャン、

クジヒロコさん(愛称クージー)を迎え、

クージーとレコーディングしてみたら

どんな感じなんだろ?という

メンバーの発案で、

ツアー後にリリース目的ではなく

遊び感覚で

3曲作ってみたそうです。

 

遊び感覚、といっても

「フェイクファー」、

もっというと「インディゴ地平線

あたりから、

自分達の奏でる音や

ミックスダウン(音の編集)に

違和感を持ち出し、

悩んでいる時期でもあったため、

これの後に

音を追及すべく

アメリカでレコーディング、ミックスを

行うという事が決定していた上での、

日本で行った場合との比較のために

制作されたとも思われます。

 

そんな、音に迷いながらも

束の間の休息のような楽しさを感じる

3曲が詰まっていると思います。

 

さっそく聞いていきましょう。

 

 

1999年1月1日release

99ep


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収録曲

  1. ハイファイ・ローファイ
  2. 青春生き残りゲーム

 

 

1.ハイファイ・ローファイ

 

ライブ映えしそうな、

テンションの高い曲です。

 

ドラムの勢いが感じられるところも

ライブ感があるところでしょうか。

 

実際、夏フェスなどでは

度々演奏されて…るのかな?

 

勢いのある楽しげなロック、

という感じです。

 

歌詞を見ていきます。

 

「Fly High! 甘い囁きにもフラフラと

ハイファイ ローファイ

俺はそれを愛と呼ぶよ

OK!憧憬 キビしい時もあるけれど

ハイファイ ローファイ

俺はそれを愛と呼ぶよ」

 

 

珍しく英語やカタカナが多用された、

韻を踏んでいる歌詞です。

 

「ハイファイ(Hi-Fi、HighFidelity)」とは

音の歪みが最小限で原音に忠実な再現、

という意味があり、

「ローファイ(Lo-Fi、Low-Fidelity)」とは

逆に音を録音した状態、

高音質ではないものという意味がある

音楽用語として使われる言葉です。

 

つまり、

「ハイファイ」と「ローファイ」は

対義語の関係で、

ライブの音に満足していて、

そのままの勢いが

レコーディングできたらいいのに、

録音してみたら全く異なっている

という不満の現状を

そのまま表しているかのような

言葉になっています。

 

「Fly high!」は

後の「ハイファイ」との

韻を踏むための掛け声だとしても、

言葉自体もそれと掛けていて、

ライブの勢いのある音、

「ハイファイ」な音に乗って高く飛べ!

というライブでの煽りのように

感じられます。

 

ハイファイな音に魅力を感じ、

フラフラと付いていきたくなるような

ライブの音も、

それをそのまま収録したいのに

上手くいかない状態の音に、

悩みながらも

音を追及しているそれすらも

音に対する愛と呼べる、

という解釈をしました。

 

ライブの音を完全に再現したい、

という憧れに対して、

今まさにキビしい状態ではあるけれど、

それでもなお

自分達の求める音を模索している

状態に対して、

愛だと感じて進んでいきます。

 

 

「誰も彼もイイこと言うが

欠けた夕陽が見えるだろう?

熱きソウル 蹴とばして今日も

追いかけて行く

Ride on! 毎度

カワイイだけで大好きさ

ハイファイローファイ

俺はそれを愛と呼ぶよ」

 

もっとライブ感のある

パキッとした音を録音したいと

スピッツのメンバーが望んでいた頃、

実際周りの人たちから言われてた

言葉として、

 

今のスピッツには無理じゃない?」、

 

(ローファイな音に対して)

それがスピッツの持ち味なんだから

 

という

どこか後ろ向きなものが

あったと言います。

 

妙な慰めのような

いい響きのようで挑戦を諦めさせるような

言葉に、

ふてくされる事もあるけれど、

あの綺麗な夕陽でさえ欠けている

…完璧に見えても欠点があるが、

それでもなお魅力的に映るもの を

例えとして出し、

胸に秘めた、音に対する熱い想い、魂を

蹴飛ばす勢いで

理想の音を追及していきます。

 

その勢いに乗って奏でられる

ライブでの音と、

勢いを持っているのに

なぜかうまくいかない録音された音。

 

毎度この音のギャップに

困っているものの、

その困らせる音の変化自体にも

なぜか愛しく感じて、

迷いながらも理想へと近づいていく、

その行程に対しても

愛だと信じています。

 

スピッツが何よりも音楽が大好きで、

音にこだわりを持って追及している様子が

よく感じられます。

 

 

「さぁ逃げろ白い壁突き破って

骨の音が空に響くまで」

 

他者から放たれる

後ろ向きな言葉から逃げて、

無理だと言われ続けた高い白い壁も

突き破る勢いでいこうという

決意が感じられます。

 

骨の音…ありのままのバンドの音 が

空に響いて放たれる、

リスナーに届くようになるため、

無理だと言われ続けた高い壁に

立ち向かっている様子が窺えます。

 

 

「ムダなことがこぼれそうでも

交尾のための生じゃなく

熱きソウル 蹴とばして今日も

追いかけて行く

OK! 憧憬 キビしい時もあるけれど

ハイファイローファイ

俺はそれを愛と呼ぶよ」

 

たとえ自分達の挑戦が

ムダな事だとしても、

交尾のため、子孫を残すためだけに

生を授けられた生き物のようには

なりたくない、

どこかで自分が生を授けられた

別の意味を見出だしたいと願う思いが、

スピッツにとっては

ライブ感ある音を作ることでした。

 

もはやスピッツとして生きている意味

としての音の追及である、という

熱い想いで

周囲の反対を蹴り飛ばしてでも

挑戦していきます。

 

今はまだキビしい状態で、

憧れとして止まっていても、

音にこだわる自分達の

音に対する愛を持って

究極の理想の音を目指していくのです。

 

リリース予定がなかったとしても

現状の自分達を表現しようと思ったのは、

その音にこだわる熱い想いを忘れないで

追及していこうという

意思表示をしようとしていた

のではないのかなと感じました。

 

 

 

2.魚

 

度々言ってるのですが、

スピッツは水の表現が天才すぎる。

 

この曲は

その真骨頂のように感じられます。

 

穏やかで澄んだ清流のように、

静かに美しく、どこか寂しげな水の流れを

感じられるサウンドや、

こぼれ落ちてキラキラと小さく輝くような

美しい情景や心情を表現した歌詞。

全てがマッチしていて

これほどまでに完璧に水を表現できる

バンドはいないと思います。

 

と、いうわけか

この曲は長年ファンの間でも人気曲で、

ファンクラブ限定ライブで、

ファンクラブ会員が選ぶ

聞きたい曲ランキングでは常に上位、

殿堂入りも果たした名曲です。

 

そんな、天才的に水を表現した曲を

さっそく聞いていきます。

 

繊細だけどどこか暖かみもある

イントロから、

幸せを感じながらもその先に見える

冷たい何かに怯えるような、

そんな繊細に揺れ動く心情を

表現しているような

音と歌詞が続きます。

 

ギターが鳴り響くというよりも、

ゆったりしっとり続く美しい音

という感じです。

 

歌詞を見ていきます。

 

「飾らずに君のすべてと

混ざり合えそうさ 今さらね

恋人と呼べる時間を

星砂ひとつに閉じこめた

言葉じゃなくリズムは続く

二人がまだ出会う前からの

繰り返す波の声 冷たい陽とさまよう

ふるえる肩を抱いて

どこにも戻らない」

 

二人で過ごす穏やかで幸せな時間に、

着飾る事もなく純粋な気持ちで

ひとつになれそうな気がする日々を

送っています。

 

そんな「恋人と呼べる時間」を、

海岸の貝が砕けて

星の形になっているカケラが

砂に混じった「星砂」、

偶然の産物だけど

繊細で美しく貴重なもの、

そのひとつに閉じ込めます。

 

星砂というものが、

自分達の恋人関係を表しているのだと

感じられます。

 

二人がまだ出会う前から続いていた

リズムが、

出会って恋人になった今でも続いている。

 

それは、

どこかで孤独を抱きながら、

ずっと抱え込んでいた

漠然とした不安なのかもしれません。

 

繰り返される、

静かに立つ波の声が、

冷たい陽とさまよい続ける世界。

 

何となく情景としては、

厚い雲に覆われて、

光はあるけれど日射しがない

藍色の空の下で、

ひたすらに静かに波打っているのを

眺めている、

というイメージです。

 

そこに、

晴れないまま変わらないのかもしれない

という漠然とした不安を抱き、

共に肩を震わせますが、

今は大切な恋人と

穏やかに幸せに過ごせているという

僅かな希望が生まれたことで、

恋人の震える肩を抱いて、

もうそこの不安な世界には戻らないと

誓います。

 

幸せを感じながらも

まだ続く不安な日々と

葛藤している様子が窺えます。

 

 

「「きっとまだ終わらないよ」と

魚になれない魚とか

幾つもの作り話で

心の一部をうるおして

この海は僕らの海さ

隠された世界とつなぐ」

 

漠然と続く不安は、

乾いた心から来るもので、

幸せに満ちたはずの日々の中でも、

お互いに

「でもまだこの不安は終わらない」と

感じています。

 

乾いた心では自由に泳ぐ事は出来ない。

本来自由に泳いでいける

魚になれるはずだったのに

まだ魚になれないでいる、

そんな悲しみも感じられます。

 

そこで、もっと二人で過ごして、

ありもしない作り話なんかも

幾つも作って楽しんで、

心の一部を少しだけ潤そうと考えます。

 

楽しい、幸せという感情が

人の心を豊かにしていくのです。

 

幸せに満ちて潤った

二人だけの海は、

二人が共通して持っている不安や、

僅かな希望の世界と繋がっています。

 

それは、二人が心から繋がっている、

お互い様だけがお互いの味方であるという

まさに二人だけの世界で

漠然とした不安を抱きながらも

幸せになろうとしている表現だと

感じました。

 

「鉛色に輝く

この海は…隠された…言葉じゃなく…」

 

「二人がまだ出会う前からの

繰り返す波の声 冷たい陽とさまよう

ふるえる肩を抱いて

どこにも戻らない」

 

まだ晴れなくて、

鉛色に輝く空の下、

隠された言葉…不安な気持ちを、

見つめながらも

二人で過ごす事で向き合っていこうと

誓っているように感じられます。

 

静かに続く波と、

キラキラとさらさらとこぼれ落ちそうな

繊細さを持ちながらも大切な関係、

という情景や心情がイメージできる、

そんな表現が

見事に音として成立しています。

 

編集作業を、

アルバム「惑星のかけら」を担当した方に

お願いしたという事で、

それらしく宙に浮くような

エモーショナルな雰囲気も

どこか感じられ、

よりこの曲の世界観を出していると

感じられます。

 

 

 

3.青春生き残りゲーム

 

タイトルがもう既に何かカッコいい。

 

ギターが終始激しく鳴り響く

THE・ロック!なサウンドが特徴的な曲。

 

イントロや間奏が長めなのもあり、

スピッツが奏でる

尖ったバンドサウンドというものを

存分に楽しめる曲だと思います。

 

そんな尖った音で語られる

歌詞はと言うと、

やっぱりスピッツらしいと言いますか、

尖りたい気持ちを持ちながらも

尖り切れずにいる思春期の少年、

みたいなイメージです。

 

詳しく聞いていきましょう。

 

「本当の淋しがり屋は

金棒で壊しまくってる

まちがって悪魔と踊る

よろこんで命もけずる

荒れ荒れのハートに染み込む

他人の幸せの粒が

明日には変わるはずさ

気のせいでいいよ

今は

生き残れ 星降る夜に

約束通り必ず会おうよ

花吹雪身体に浴びて

笑えるくらい瞳輝かせて」

 

いわゆる中二病のような、

振り返ってみると恥ずかしくなるような

間違いだらけの尖り方でさえも、

それもまた青春であると思わせる

妙なリアルさがあるように感じます。

 

そんな青春時代に荒れようとする

その心情は、

本当は誰かに構ってもらいたいという

想いを抱く淋しがり屋。

 

そんな気持ちを持ちながらも

うまく表現できなくて、

自分の気持ちを金棒で壊し、

間違っているのに魅力的に感じてしまう

悪魔と踊り、

危険な事さえも喜んで行う。

 

そんな荒れに荒れた心に染み込むのは、

そんな風にわざと尖って

寂しいのを誤魔化そうとせずに、

真っ当に青春を送る、幸せな他人たち。

 

心に染み込み、

落ち込んでしまうこともあるけれど、

明日にはきっとまた

心情は変わるからと言い聞かせ、

今はただ、自分のやり方で

青春時代に取り残されないように

「生き残れ」と

強くエールを送ります。

 

星降る夜、は

ロマンチックな表現ですが、

まさにキラキラした夢のような夜、

つまり自分が本当に感じたかった、

真っ当な青春を夢に見ているところ

という解釈をしました。

 

キラキラした青春を送っていたら、

気になってるあの子にも会えて、

花吹雪が舞い、身体中に浴びて、

お互い笑いあうような関係で

瞳を輝かせていただろう…

というのを夢に見るのですが、

現実ではそれをうまく表現出来なくて、

結局間違った方向へ

荒れていってしまうという、

それもまた青春さのある

繊細な心情を感じられます。

 

 

「勝ち目の無いバカなゲームと

適当に風に流してた

青春の意味など知らぬネズミのように

ただ

生き残れ 見知らぬ街で

ふくらむ気持ち 丸々たくして

紙ヒコーキ 恋する季節

百億世代続いた糸を切る」

 

キラキラした青春に

憧れを抱きながらも、

自分は到底叶いそうにない、

勝ち目のないゲームだと投げ出し、

青春時代を

適当に風に流す日々を過ごします。

 

本当の青春の意味なんか知らない

そこらにいるネズミのように無心に、

でもただ複雑な心が入り乱れる

この青春を何とか

自分らしく今は生き残ろうと

踏ん張っているのです。

 

まだ見知らぬ街、未知の自分の世界に

たたずむ中で見つけた恋する季節に、

その想いが膨らんでいくのを

紙飛行機に丸々たくして

思いきり飛ばしていく、

そのまっすぐさもまた、

青春らしいと感じられます。

 

たとえこの恋が、

百億世代続く血筋に反っていたとしても、

そちらに従わず

自分の想いを信じて、

繋がりなんかはあっさり断ち切る勢いで、

間違った方向へでも

とにかく自分の気持ちに素直に

突き進んでいきます。

 

 

「生き残れ 星降る夜に

約束通り必ず会おうよ

花吹雪 身体に浴びて

笑えるくらい瞳輝かせ

生き残れ 見知らぬ街で

ふくらむ気持ち 丸々たくして

紙ヒコーキ 恋する季節

百億世代続いた糸を切る…」

 

正解なんかはまだ分からない思春期の、

素直になりたい気持ちと純粋さ、

少しの曲がった気持ちを持ち合わせた

複雑な青春時代を、

そのまま、歪んだままでいいから、

周りに取り残されないように

生き残り、成長していこうという

強い想いが込められている曲に

感じました。

 

ロック=普通の道から反れたもの、

みたいな解釈なのでしょうか、

そんな想いと相まって

尖った音がよりその複雑な心境や

ある意味理想を表現しているように

思います。

 

最後、

音がだんだん薄くなって消えていく

終わり方もまた、

まだまだこの先も続いていくという

意思と期待を感じます。

 

 

 

【まとめ】

 

以上で「99ep」を聞き終わりました。

 

レコーディングは遊び感覚で

楽しく出来たと振り返るものの、

音の問題はまだまだ解決しておらず、

出来ばえとしては

納得できるものではないと語っています。

 

けれど、これをリリースした事で

音の問題が明確化し、

それを解決すべく

また新たなステージへ

一歩踏み出す事になったとあるので、

決してマイナスばっかりではないのが

救いです。

 

この「99ep」に収録されている3曲は、

後にスペシャルアルバム

「色色衣」に収録され、

このアルバム自体は現在は

廃盤となっているので、

これから聞く方は「色色衣」の方で

聞いてください。

 

しかし、

お正月リリースという訳か、

ジャケットも内装も和風、

パッケージを開くと

麻雀をするスピッツメンバーが出てきたりと

なかなか面白い作りになっているので、

どこかで見かけたら見てみてください。

 

ちなみに、

私の住んでる地域の図書館に

やたらスピッツのアルバムがあって、

これもバッチリあったので

私が実物を所有している訳ではないですが

借りて見た事はあります。

あの図書館天才かよ。

 

…はい。

 

以上、桃亀改めandでした。